2020年は、コロナが始まった年でしたが、死亡者数は前年と比べてマイナス9373人と、11年ぶりに国内の死亡者が減った年でした。
緊急事態宣言が初めて出された2020年5月頃は、多くの医療機関で、最も外来患者さんの数が減っていた時期だと思います。患者さん達に聴くと、病院に行ってコロナに罹りたくないから、少しでも調子を崩したら自分でケアをし、体調管理をしていたので調子が良かったということでした。人が自分で治ろうと思うと、想像以上に治癒が進むのだと体感しました。
コロナ禍を体験してから、出てきた症状を抑える、というより、まずはその症状を受け容れ、何が原因で、何が必要なのかを自分自身に問い、身体を整えることの大切さを実感するようになりました。
自己治癒力を引き出すのに重要なのが、体の基礎となる栄養医学(Orthomolecular medicine)です。採血の値が「基準値範囲内」でも、栄養が不足していることがあります。基準値範囲内=理想値ではないのです。
健康診断や病院の検査では「異常なし」、でも調子は悪い、原因が特定できない体の不調は、よく調べてみると、栄養不足が関係していることが多くあります。
例えば、健診でよく測定されるALTについて、栄養学的には「基準値範囲内」でも一定の値を下回ると、ビタミンB6不足と判断します。ビタミンB6は、糖の産生に必要なため、ALTが低いと低血糖になり、疲れやすくなるのです。また、悪夢、夜泣きの原因となります。なお、ビタミンB6補充は、チック症状等に有効です。
コレステロールについては、下げ過ぎるのは問題です。コレステロールは、造骨、脳の神経伝達、脂質を分解する胆汁酸やホルモンの原料となるからです。
尿酸が高い場合、投薬もひとつの選択肢ですが、尿酸を上昇させる果糖(果物)や激しい運動を控える、抗酸化作用のあるビタミンA,C,Eを摂取するなどで解決します。
ビタミンD不足は、アレルギー反応に関わっていることが研究で判明しており(Tissue Barriers, 1(1), s23118.doi:10.4161/tsib.23118)、ビタミンD補充は、花粉症、蕁麻疹にも有効であることが話題になっています。当院では喘息のコントロール、にきび、爪の表面の凹凸が良くなる方もいらっしゃいます。
ビタミンDが高いと、体外受精の妊娠率が高くなるという報告があります(Fertility and Sterlility. 94(4), 1314-1319)。妊活中の方には、ビタミンDだけでなく、子宮内膜の分化を促し、着床を安定させるビタミンA補充が有効とされています。
亜鉛が不足すると、脱毛、味覚障害、肌荒れ、爪トラブル、傷が治りにくい、身長の伸びが悪い、風邪を引きやすい、といった現象が生じることがあります。亜鉛は、細胞の生まれ変わり、遺伝子の合成、免疫機能など、多くの生命活動に欠かせないミネラルだからです。
パニック障害と診断される背景には、血糖の乱高下が原因となっていることがあります。甘いものを食べると落ち着くというケースです。その場合、血糖を安定させることが鍵となります。血糖の乱高下は、夜間の歯の食いしばり、中途覚醒、悪夢にも関わるので、なるべく夕食後に甘いものを摂らないことをお勧めします。
女性に多いのが、鉄不足です。女性の不定愁訴と一蹴されてしまう以下のような症状には鉄不足が隠れていることがあります。
- 息切れ・動悸・胸痛・のどの不快感
- 頭痛・肩こり(脳・筋肉の酸素不足)
- 寝起きが悪い・睡眠が浅い
- 気分が不安定・本の内容が頭に入らない・覚えられない(神経伝達物質を作れない)
- 乾燥肌・脱毛・ニキビ・かかとや唇の乾燥・アザができやすい(コラーゲンが脆弱)
- 甘いものが欲しくなる(エネルギー不足)→蛋白不足になり、消化酵素を作れず、食べると胃がもたれる
上記症状が出るのは、鉄が酸素運搬、神経伝達、コラーゲン合成、エネルギー産生を担っているからです。風邪・リウマチなどの炎症、脂肪肝、がん、腸内環境悪化があると、鉄の吸収・移動が阻害されます。健診でヘモグロビンが正常で貧血がないと判断されても、鉄不足の方は大勢おられます。